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ある彫刻家の失踪

​​

作:日色

 

時代は1920年代、アメリカはマサチューセッツ州アーカムの街が舞台。

探索者は「ケネス・ヒース探偵事務所」のメンバーとして、

ある男性の「友人を捜して欲しい」という依頼を担当する。

​シナリオ人数:1~3人  シナリオ時間:2~3時間程度

Andrew(アンドリュー)

依頼人

 本シナリオにおいて探索者たちに、友人であるBert(バート)捜索の手伝いを頼む依頼人。

Bert(バート)

失踪者

 Andrewが探している友人。彫刻家。

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​ーーーーーーーーーーーーーーー以下、シナリオのネタバレを含みますーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【背景】

 本シナリオにて探索者たちに友人捜索を依頼するAndrewなる人物は、巧みにその本性を隠しているが、実はニャルラトホテプに心酔する狂信者である。彼は、自らが崇拝する邪神の強大さや素晴らしさを友人であるBertに説き、狂信者にしようとしていた。

 Bertはアーカムに住まう彫刻家である。彼の作り上げる作品が、ニャルラトホテプの招来に通ずる時がくるのではないかと妄執してしまっているAndrewは、彼に神話的事象と知識を、甘美なもののように語り続けた。Bertは拒否しながらも次第にAndrewの影響を受けてしまい、その結果、彼の生み出す彫刻作品はそういった作風に変わっていく。

 そして、Andrewの妄執がある日、現実のものとなる。Bertの最新作はあまりにも神話的事象とシナジーの強い、「アーティファクト」になってしまったのだ。作品の製作途中でそのことを知ったAndrewは、その作品を使ってンガイの森にてニャルラトホテプの化身の一つ「闇に棲みつくもの」の顕現を目論むようになる。

 完成したBertの作品であるアーティファクトが欲しいAndrew。しかしBertはその作品の危険度に気付き、怖気づいてしまう。ゆっくりと浸透するように浸っていたBertの狂気は、自らの作り出したその作品の異常性・圧倒的存在感によって冷めきり、正気を取り戻す。さらにBertはAndrewが自身の作品を使って行おうとしている所業を知ってしまう。その結果アーティファクトを持ってBertは失踪する。

 Bertの行方を追うAndrewは、自分だけでこの広大なアーカムから1人の人間を捜し出すことの困難さを感じ、探索者を利用するためにケネス・ヒース探偵事務所の扉を叩く。

 

【全体の流れ】

 探索者は事務所にて、Bertの身を案ずる芝居をするAndrewからの依頼を受け、Andrewと共にBertの捜索を開始する。その中で、Bertの周囲に転がる神話的な物品や情報を見つけ、≪門の発見≫の呪文を修得することで遂にBertを発見する。

 Bertは恐ろしがっており、探索者たちはそのリアクションに違和感を覚えるだろう。次の瞬間BertはAndrewの放った≪萎縮≫によって、探索者たちの目の前で一瞬にして黒こげの見るもおぞましい姿となって死亡する。探索者たちに次の行動を許さず、Andrewは≪クトゥルフのわしづかみ≫によって探索者たちの身動きを封じ、意識を奪い取る。≪クトゥルフのわしづかみ≫からの解放後、Bertの手記によって真実を知った探索者たち。今度はAndrewを止めることがメインミッションとなる。

 Andrewの足跡をたどり、≪門の発見≫で見つけた門を通ると、ンガイの森へ辿り着く。探索者が森を進むと、森の中央部にある平石の前でアーティファクトを用いてニャルラトホテプ招来を行っているAndrewを発見する。

 探索者たちが止めようとしても、用心深いAndrewは≪ナークティトの障壁≫を張っているため、探索者の攻撃は一切届かない。そして招来が完了すると、「闇に棲みつくもの」の触手にAndrewは貫かれて即死する。

 Andrewが死ぬことで障壁がなくなり、探索者が今度はその脅威にさらされる。来た門へ向けて逃走し、逃げ切ったらゲームクリア。

 

【導入】

 探索者はダウンタウンにある「ケネス探偵事務所」で昼下がりの時間を思い思いに過ごしている。KPは探索者達が探偵事務所で暇な時間をどう過ごしているか聞いてみるのも良い。

 そんな中、所長のデスクにある電話が鳴る。ケネス所長が応対し、探索者達に「今から依頼人が来る。時間があるなら君たちお願いするよ。」と仕事を回してくる。程なく事務所の扉を、一人の男性がノックする。しっかりとしたスーツに身を包んだ男は、自分をAndrew(アンドリュー)と名乗る。職業は宝石商をしている。

 挨拶もそこそこに、彼は依頼の内容を話し始める。「行方不明になってしまった友人であるBert(バート)を一緒に捜して欲しい」というものだ。

 Bertは彫刻家である。しかしその道の芸術に造詣が深くなければ彼の名は聞いたことが無い。Andrewは、Bertとはここ1週間程会えていなかったという。Bertはこれまでも3~4日なら誰にも何も告げずどこかへいなくなることはあった様子。そのため警察はいつものことだと思っておりまともに動いてくれない。しかし実際は失踪してから1週間を超えている。

 Bertの彫る彫刻の作風は、ここ最近どことなく変わったような気がする。それに伴い彼の様子もどことなく変わっていったようにAndrewは感じていた。

 ともかく彼の安否が心配でならないため、探索者に捜査協力を依頼する。依頼を受ければ、AndrewはBertの顔写真と前金を支払う。捜査の足がかりとしてAndrewは「彼はロウアー・サウスサイドの下宿屋で暮らしていた。私が彼の家を訪ねた時は経営者がいなくて入れずじまいだったから、まずはそこから捜してみるのはどうだろう?」と提案してくる。

 

【Bertの自宅】

 Bertの家はロウアー・サウスサイドにある「シマンスキーの下宿屋」である。経営者であるシマンスキー夫人と会話することで、Bertの様子を聞くことができる。多少は様子の変化を感じ取ってはいたかもしれないが、夫人は下宿人にあまり干渉したがらず、家賃さえ払えば最低限のものの提供はするといったスタンスであるため、有益なことは知らない。ちなみに夫人はAndrewとの面識もある。

 夫人に対して<説得><信用><言いくるめ>技能に成功すると、部屋の鍵を貸してもらえる。

 二階にあるBertの部屋は手狭で、少々物が散乱している。探索箇所は「リビング」「寝室」。

 

▼リビング

 リビングにある本棚から、様々な書籍を発見できる。一見すると彫刻関連や芸術関連の本や雑誌類が多い。<図書館>技能に成功すると、本棚の中からブードゥーに関する書籍や奇怪な画集などを発見できる。また、過去のBertの作品が集められた写真集を発見できる。その中の彫刻はルネサンス様式のものであり、人間の肉体の美を追求するものだった。

 

▼寝室

 一人用の男性の寝室。<目星>に成功すると、洋服ダンスが異様に散乱しているのを発見できる。Bert本人も正常な精神状態になかったのではないかということが窺い知れる。またベッド下から32口径オートマチックの空箱を発見する。

 

【Bertのアトリエ】

 自宅にBertがいなかったことから、Andrewは次に彼のアトリエへ向かってみないかと提案する。Bertのアトリエはノースサイドの「ガーディアン・アパート」の地下にある。

 室内には彫刻のための様々な道具、素材となるのであろう石膏や木材などなどが乱雑に置かれている。また、製作途中の作品を見つけることができるが、それらはBertの自宅にあった写真集のような作風とは大きく異なる。そこにある彫刻は、皆一様に苦悶・恐怖・絶望の表情を色濃く現している。また、あるいは触手に拘束されていたり、あるいは自らの四肢を切断していたり、あるいは祈るような姿のまま巨大で鋭利な何かに貫かれていたりと、どれをとっても恐怖を呼び起こすものばかりだ。これらの作品群を目撃した探索者は精神的嫌悪感から逃れられず、0/1d2の正気度を喪失する。

 ここで<目星>に成功すると、雑多に置かれた書類や冊子等の中に、一枚の封筒を発見する。中には手紙と写真が入っており、写真には何かの賞を獲得し、人型のトロフィーを持ち満面の笑みを浮かべるBertと、その隣で一緒に微笑む男性の姿がある。Andrewに尋ねても、この人物については知らない様子。手紙を確認すると、撮影していた写真が仕上がったので送付するといった旨と、あらためておめでとうという言葉が書かれている。封筒にはCedric(セドリック)なる人物の住所が記載されている。

 

【Bertの友人Cedricへの聞き込み】

 Cedricからの手紙に記載された住所に向かうと、そこはアップタウンにある「クラークのゲスト・ハウス」という高級な下宿屋である。しかしオーナーであるミス・エリザベス・クラークに話を聞くと、Cedricは2年程前にこことの契約を終了し、マンチェスターという故郷に帰ってしまっていることが分かる。ミス・クラークは彼の自宅の連絡先を知っており、<説得><信用>に成功すると教えてもらえる。

 Cedricに電話し、Bertの行方について心当たりを尋ねると、笑いながら「あいつは昔から、創作のアイデアに行き詰ると必ず商業地区の埠頭近くにある小さな倉庫に篭る。」ということを教えてくれる。

 

【Bertの隠れ家、古い倉庫】

 Cedricの話を聞き、商業地区の古ぼけた小さな倉庫に向かうと、そこにBertの姿はない。倉庫の隅には綺麗に並べられ整理された本棚がある。本の種類は一見するとまるで一貫性が無い。<図書館>に成功すると、古びた紙片を紐で括っただけといった状態の悪い本を発見する。

 本の中には、『この世界には表裏一体といえるほど密に接しており、しかし通常では決してその存在を知ることの無い別の世界・別の空間が存在しており、そことこの世界を繋ぐ“門”がある。その門を使うことで裏側の世界に行けるし、門を通って遠隔の地へ一瞬で移動することができる。』という旨の記載がなされている。この本を読んだものは全員≪門の発見≫の呪文を修得し、1/1d3の正気度を喪失する。

 

【Bertの居場所~門の向こう側~】

 倉庫内にもBertはいない。しかし≪門の発見≫を使用すると、倉庫の隅に淡い光を発見する。人一人が通れる程度の光る門をくぐると、その向こう側には仄暗い空間が広がっていた(門をくぐる者は、通過の際にMPとSAN値をそれぞれ1点ずつ失う)。少々手狭なその空間には食べ散らかされた保存食の山や衣類が散乱しており、その向こうに痩せ細った一人の男性がいる。探索者はその人物を見てBertだと分かる。しかしAndrewから見せてもらった写真やCedricと共に写っていた写真と比べ、目の前の男性は目の下の隈がひどく、頬もこけてしまっている。またここで<目星>に成功すると、彼の身体の影に隠すかのように、黒い人型の人形のような物を発見する。

 探索者たちが彼にコンタクトを取ろうとしても、彼はまともに会話をしてくれない。奇声を上げ、君たちを怯えるような表情で見ながら必死に後ずさっていく。しかし腰を抜かしてしまっているのか、体力の消耗が激しいのかまともに動けていない。

 探索者達が不思議そうに、または不穏そうにその様を見ている次の瞬間、Bertが全身真っ黒の消し炭と化す。目の前で一人の人間が一瞬のうちに黒焦げとなり死亡した、その瞬間を目撃した探索者たちは1/1d4の正気度を喪失する。

 正気度の処理が終わったところで、間髪入れずに探索者の身体を異変が襲う。突然、身体を強い力で押さえ付けられたかのように、全員が床に倒れ伏してしまう。<クトゥルフ神話>に成功したものは、これが≪クトゥルフのわしづかみ≫という呪文であり、POW対抗に成功すれば打ち勝てるものだが、Andrewが首から提げている謎のペンダントが妖艶に輝いており、そのペンダントから発されている力に全く太刀打ちできないことが分かる。探索者たちは、全員を冷ややかな目で見下ろしているAndrewを目撃し、次の瞬間に意識を失う。

 

【Andrewの本性】

 次に探索者達が意識を取り戻すと、Andrewの姿は無く、黒い人形も無くなっている。黒焦げになった死体の傍に、真っ黒になった手帳を発見する。読める状態のページはほとんど残っていないが、めくっていくと一箇所だけなんとか判読できる状態のページがある。

 「奴の影響によって収集した本の中に記載されていた、“門”を開く術を使い、この部屋に身を隠す。奴は門の存在を知っているだろうが、この倉庫のことは決して知ることはない。また倉庫のことを知っている者には、この“門の向こう側の世界”のことは分からない。

 奴に誘われるようにこっち側の知識を貪ってきたが、本当に自分が愚かだったと痛感する。あいつは私に初めからこれを作らせる算段だったのだろう。とにかくこの彫刻だけは渡してはいけない。あいつがこれを手にしてしまえば、散々聞かされてきたあの身の毛もよだつおぞましい邪神がこの地に降り立ち、世界は破滅してしまう。

 本当なら今すぐにでもこんなもの捨ててしまいたい。生半可な知識しか収集していない自分でも分かる、これは危険すぎる。私の狂気を一瞬で冷まして、覚ましてしまうほどに、これはこの世にあってはいけないものだ。しかしこれを粉々に砕く手段を私は持ち合わせていない。とにかくしばらくはここに身を隠し、この像を破壊する手段を考えなければ。」

 探索者たちはこの手記を読んで、BertはAndrewによってクトゥルフ神話の世界に身をやつし、その知識を収集し始めてしまったこと、それら全てがAndrewの企てている何かの計画の一部だったということ、そして探索者達がBertを探しだしたことが、彼の計画への加担だったことを理解してしまう。

 ここで探索者は、Bertが作り上げAndrewが持ち去った黒い人形のような彫刻の詳細を思い出すために<アイデア>ロールに挑戦することができる。成功してしまった場合、その人形には顔と呼べるものが無く、頭部がまるで円錐のように変形していたことを思い出す。

 ともあれ探索者はBertを殺害し、その片棒を担がせたAndrewを探すこととなる。

 

【Andrewの居所探し】

 門を出て、倉庫から外に出たところで探索者に<目星><聞き耳>を振らせる。<聞き耳>に成功すると、小さな馬の蹄の鳴る音と鼻唄交じりに歩く人の足音が聞こえる。<目星>に成功すると、少し先にロバのように小さな馬に荷馬車を引かせながら歩く浮浪者を発見する。

 彼を発見し<知識>ロールに成功したものは、それがアーカムの裏路地に最も精通している男「カフーン・ハイラム」だと知っており、彼ならAndrewを見ているかもしれない、そうでないにしても彼はAndrewのことについて何か知っているかもしれないと思い至れる。

 ハイラムから何か情報を聞き出すためには、<説得><信用>の半分でロールする必要がある。その前に彼は間抜けのフリをしながら、酒をせがむようなロールプレイをKPは行う。探索者が酒を渡すのであれば<説得><信用>に+20の補正をつけてダイスロールする。

 判定に成功すると、Andrewらしき男が倉庫から出て行ったのを見たと話してくれ、さらに向かった方角からおそらく彼はアップタウンにある自宅へ帰ったのではないかと告げる。酒の礼にと彼は快くAndrewの自宅住所を探索者に教えてくれるだろう。

 

【Andrewの自宅地下】

 アップタウンは裕福な階級層の家が立ち並んでいるが、Andrewの自宅もその中にある。平屋建てのAndrewの家を外から調べるのであれば、家の中からは物音一つしてこない、人の気配が全く無いことが分かる。

 彼の家に入るためには、不法侵入するしかない。しかし正面玄関で不穏な動きをしていたり、どこであっても大きな音を立てれば一定確立で付近の住民や巡回中の警官に見つかり、すぐに捕まってしまうだろう。家の周囲を回って裏手の勝手口を発見し、<鍵開け><機械修理>で扉を開錠し侵入することがセオリーだ。しかし探索者が暴力的な開け方を好む場合、KPはシークレットダイスを振ってPLの不安感を煽るまでに留めるべきである。

 屋内に入ると、すぐに地下への階段を発見できる。その他の部屋を探索したがるのであれば、拳銃を所持していることを匂わす描写として、拳銃の空箱を出したり、何か探索者が武装したがるのであればこの屋敷から適当なものを拝借したことにしてもよい。いずれにせよ屋内に有益な情報は無く、地下へ降りることでシーンが進む。

 

【門の向こう~ンガイの森~】

 地下室には小さめのワインセラーと配電用の機材がある程度だ。彼の姿はここには無いが、床に君たちへ見せたBertの写真が落ちていることから、探索者はAndrewが確かにここに来ていると確信する。

 ここで≪門の発見≫を使用すると、地下室の壁に門が開いているのを発見できる。その門を通ると、その向こうには、鬱蒼とした不気味な森が広がっている(門をくぐる者は、通過の際にMPとSAN値をそれぞれ1点ずつ失う)。

※この門の向こうの森は、アーカムのあるマサチューセッツ州から1400マイル以上西に行ったウィスコンシン州にある「ンガイの森」である。この森はクトゥグァに使わされた炎の精によって焼き払われるのだが、それは1940年代のこととされており、このシナリオの時系列では未だ現存している。

 門を通った時間帯が何時であれ、門の先に出たときには辺りは夜となっている。時折樹の影から顔を出す満月の月明かりが、かろうじて視界を確保してくれているが、それでも周囲は不気味なほどに暗く、木々は今にも動き出し君たちをその枝で捕らえんとするかのようである。

 森の中をただただ進んでいくと、不意に開けた空間に出る。その空間の中心部付近には、大きく平たい石が置かれており、その平石の前にAndrewが両の膝をついている。

 

【招来】

 探索者たちはAndrewに対し声をかけるかもしれないし、不意討ちで銃撃をかますかもしれない。しかしあらゆる攻撃は、Andrewがここに来てすぐに展開した≪ナークティトの障壁≫の前に弾かれてしまう。声に対しては振り向き、探索者たちを冷ややかな目で一瞥すると「君たちは既に用済みだ。これから我が神をお迎えする、ここは神聖な場所となるのだ。今すぐ消えたまえ。もっとも、もはや君たちは何も出来はしない。」そう言うと黒い人形を両の手で持ち、天高く掲げながら、この世の言語ではない発音で何かを一心不乱につぶやき始める。

 

――ふと、Andrewの掲げる人形が、動いたような気がした。それはAndrewにも分かったようで、彼は詠唱を止め、掲げていた手を下ろし人形を見やる。次の瞬間、Andrewの背から、黒い何かが出てくる。いやそれは、闇よりもなお暗い、真黒な触手がAndrewの身体を貫いた瞬間だった。ガボリ、ゴボリと喉に血の溜まるような音を立てながら、Andrewはその場に崩れ落ちる。その時、君たちと彼の間を隔てていた壁のような何かが、カシャンという軽い音を立てて砕け散ったように思えた。彼の手から零れ落ちた真黒の人形から、君たちへ向けて明確な視線と悪意を感じ取る。次の瞬間、森の木々のような太さをした、何十本という触手が、君たちへ向けて襲い掛かってくる――

 

探索者たちは眼前の光景と迫り来る巨大な殺意に、1d4/2d8の正気度を喪失する。

 

【ラストダッシュ】

 探索者たちはこの大量の触手に立ち向かうようなことはしないであろう。明らかにそれは無謀を通り越して狂気であるからだ。

 ここで、探索者たちは触手に捕まることなく、通ってきた門に戻りこの場を脱出することになる。

 このラストダッシュには横7マスの表を用いる。

  • 触手

  •  

  •  

  • 探索者

  •  

  •  

 上記のような初期配置で、探索者には3マス先のゴールである門を目指してもらう。ここからはイニシアチブ順の行動をとる形式となり、探索者たちは自分の好きな技能を、触手から逃れ門へと急ぐために使用してもらう。逃走のためにその技能を使う描写を行ってもらい、それが適切だった場合にその技能判定を行う。成功すると1マス先へ進める。失敗するとその場から動けないままターンを消費する。

 ※クリティカルの場合2マス進む、ファンブルの場合転倒し、誰かが引き起こしてくれなければ次ターンはお手つき等アレンジを加えても良いかもしれない。

 また、この判定に一度使った技能は、判定の正否に関わらず次以降使用することが出来ないことに注意。また原則としてステータス値×5でのロールは許可しないほうが良い。ここはPLの頭の使いどころであり、恐怖からの逃走というスリルを描写するポイントであり、何より大喜利の場なのだ。

 イニシアチブ表順に探索者たちが行動を終えると、触手の手番となる。触手は技能判定等なく1マス進む。また人形は不気味な咆哮を上げており、その声は探索者の勇気を挫く。毎ターンこのタイミングで探索者は0/1d3の正気度を失う。

 探索者が触手に追いつかれた場合、その探索者は触手に絡めとられ、全身の骨を砕かれて即死する。この時点でその探索者はロストとなる。

 生き残っている探索者が門に辿り着くと、エンディングに移行する。

 

【エンディング】

 門を通ると、そこはAndrewの自宅の地下である。ワインを保管するために一定の温度で保たれている室内が、しかし嫌に寒く感じるのかもしれない。

 あれが何だったのか、探索者たちは知る由も無い。

 ただ、ただただ今は、自分の命があることを、心底ありがたく思いながら、

 探索者たちはそれぞれの日常へと還っていく。

 夜中に、どこか遠くで、寒気のする声を聞きながら・・・

 

【アフタープレイ】

 本シナリオを生還した探索者には1d10の正気度と<クトゥルフ神話>5%が追加される。

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